2013年1月20日日曜日

今月の一冊 スコット・マリアーニ「終わりの日 黙示録の預言」

この小説、端的に言うと上質な娯楽作品です。

 

元々、俺が読書という行為に求めているのはおもしろさであり、

物語に身を委ねる没入感であり、

俺自身もそんなふうに不特定多数の方に現実を忘れて楽しんでほしくて小説を書いてたりもして、

そういう俺みたいなもんにとってこの本は、

欲しているものをきちんと満たしてくれるものでした。

 

こういう上質な物語を定期的に摂取したくなるんよね。

 

タイトルからおわかりのとおり、主題となるのはヨハネの黙示録です。

黙示録。預言。福音主義。

そういったものが物語の核をなしていて、

かなり深く取材して預言関連は構築されているんやけど、

キリスト教の禁忌に挑むとか、宗教史に隠れた謎を解き明かすとか、

信仰とは、ヒトとは、終末論の先に待つ未来とは、そこに希望はあるのか、などといったことではなく、

純然たる娯楽作品として駆け抜けていきます。

 

いっぱい取材して、もっともっと書きたいやろうに、

そこを削って娯楽作品としての完成度にこだわるこの潔さ。

 

著者のあとがきに、

「ベン・ホープはフィクションのヒーローであり、ヒーローは悪役なしには存在し得ないのだ!」とあるように、

この小説は徹頭徹尾、ヒーローとしてのベン・ホープの物語です。

 

このシリーズはこれが三作目だそうで、

おそらく二作目あたりに書かれてるんやろう、つらい出来事をひきずった状態で幕を開けます。

 

シリーズもので、前作からつながってはいるけど、つながっているのは登場人物の立場だけ。

物語の幹の部分は独立しているから、過去作を知らなくてもすんなり入りこめます。

海外ドラマをシーズン2から観る感覚に近いかな。

おもろいものってたとえ途中からでも問題なく観ることができて、のめりこめるものね。

こういう構成はうまいなあ。前作を読みたくなるもんね。

 

で、主人公ベン・ホープさんですけど、

これがまた見事なまでのヒーロー。

八十年代アクション映画の主人公のごときタフガイっぷり。

いついかなるときも泣き言なんて吐きゃしないし、

どんな困難も頭脳と肉体をフル回転して打開。そして基本の戦闘能力は常にチート状態。

 

でも都合のいいスーパーマンではないから一人で対処するには限界もあって、

危機は訪れるし、けっして自分に弾はあたらないアクションヒーローではないし、

冒頭からひきずるつらい出来事のせいで影を落としてたりもして、

それもあってかつて学んでいた神学の道を志して復学し、

今回の主題であるヨハネの黙示録とからめていたり。

 

こういうところのうまさ、上質な感じが、大好きなのよ。

 

敵は敵で、もう見事なぐらいの悪役、やられ役に徹しているのも良い具合です。

敵側に様々な設定やら物語があると、アクション部分で眼と意識がばらけてしまうけど、

この作品ではやられ役に求めているものはこれだけ、と割り切って撃たれまくります。

ターミネーター2では強烈な存在感を残したT-1000役のロバート・パトリックが、

ダイハード2では空港の動く歩道で

おどろくほどあっさりやられるオライリー役(そんな名前、劇中では出てこんけどね)に徹するあの感じ。

自分の仕事をちゃんと理解して、きちんとやられてくれるプロフェッショナルなのを、

この作品の悪役からは感じます。誉めてます、心から。

 

主人公、悪役だけでなく脇役も味わい深いです。

 

物語は二転三転して、その二転三転でどんどん読み進めていけるから、ここでは割愛しときますけど、

ギリシャからアメリカ、そしてエルサレムへと舞台が移りながら、

要所要所で必ずアクション小説、娯楽小説ならではの「おいしい」役が現れます。

 

ギリシャの諜報員に始まり(ベン・ホープは諜報員に実はこうこうこうなんだ、僕のほうが能力が上なんだ、と

懇切丁寧に説明してあげるお茶目さん)、アメリカでは詐欺師に続き悪どさ百パーセントのCIA

ファンキーな農場主(いったい誰がその機関銃を手入れしてたの?

いくらなんでも錆びとかですぐには使えんでしょ?なんてつっこみはしちゃだめ)

ハードボイルドのお約束であるラブロマンスの要素をちりばめられてたりもね。

 

とにかく頭をからっぽにして楽しみやがれ、という書き手の声が聞こえてきそうなほどの娯楽っぷり。

 

そして娯楽作品として、これは見事!と思ったのは、エルサレムでの描写かな。

とある悪役を探すシーンなんやけど、ここで序盤の伏線をうまく活かし、

くどくど説明することなく、しかし大いなる説得力でもってベン・ホープを悪役まで導いた作者の手腕がね。

 

まいった。うまい。

 

おそらく読んでいたらさらりと流してしまうところやと思うのよ。

ミステリー小説の謎解きみたいに明解な驚きでもって書かれているわけやないから。

 

でもこういう、整然とした理論というか、完璧な数式というか、

すべてがあるべきところへ収まる整合性、その整合性を起因としたカタルシスがね。

 

読んでいて気持ちがいいんですよ。

 

終盤はエルサレムのその描写だけでなく終わらせ方もすっきりしてて、

悪役の片づけ方は最高やし、ラブロマンスの決着もハードボイルドらしい。

 

それでいて、もやっとさせてくれるところもあって、

最後のシーンでの主題にからめた主人公の行動。

 

結末をここに持ってくるところは、すごい。

すっきりした読後感であると同時に、じゃあ次の話でベン・ホープはどうなってくの?と思わせてくれます。

こんなん、次も読むしかあれへんやん、となります。

俺はなりました。 

 

そんなわけで、いい栄養をいただきました。